コラム

①現代社会と子どもたちの育ち

 私たちの社会は利便性や効率を求めて発展してきました。街は都市化され、私たちの周りには車や便利な電化製品、PCやスマホ、ゲーム機器等、様々なものであふれています。それらは快適で便利な生活を与えてくれる一方、以前にはなかった様々な問題を生み出しています。これらは、大人はもちろん子どもたちの成長や発達にも大きな影を投げかけています。

 乳児期には、赤ちゃんの視線や笑顔、泣き声に養育者が応え、養育者の表情や声かけに赤ちゃんが応える等、お互いに触れ合い、反応し合うことで養育者と赤ちゃんとの間に「基本的信頼感」が形成されます。この時期に、魅力的だけど一方通行の動画や、しょっちゅう通知が来るSNSばかりに関心がいくと、赤ちゃんとの関係をしっかりと築く妨げになりがちです。それが最近の子育て事情です。

 幼児期になると、身体を動かすような遊びや運動が活発にできるようになります。身体を使うことで、身のこなしのための状況判断や予測のための思考判断等が育ちます。また遊びの中では、ルールを守ったり自分の気持ちを抑えたりする社会性も育ちます。こうした社会性は、これから続く集団生活をしていく上で欠かせないものです。しかし、便利な電化製品や交通手段によって普段の生活にそれほど高い体力や運動能力が必要ではなくなっていることや、安全で安心して遊べる空間が減少していること等によって、子どもたちが身体を使って触れ合う機会が少なくなっています。結果として、とっさに身を守ったり、危険を予測したりする機会も、自己主張したり友だちにゆずったりして遊ぶ機会も減っているのです。

 児童期に入ると、大人から離れて自分たちだけで集団遊びをするようになります。幼児期よりももっと遊び仲間との交流を通して様々な体験をし、仲間との付き合い方を学ぶのです。しかし、現代の子どもたちは、塾やお稽古事の予定がつまっている等、自分たちで集まって遊ぶことが難しくなっています。また、事故や犯罪への懸念等から、子どもの遊ぶ場所が減り、身体をしっかり動かして遊ぶことも難しくなっています。そこで主流になるのは、一緒にゲームをするという遊び方です。それぞれが別のゲームをしながら一緒にいることもできるので、それほどやりとりがなくても仲よく楽しく一緒にいる集団となることができます。そこでは、トラブルも生じにくいためけんかをしたり仲直りをしたりといった問題解決の経験も十分ではありません。子ども同士のつながりは希薄なものになりがちです。そして、そのような薄いつながりのまま、子どもたちは思春期に入ります。

 思春期前半では、同じ興味・関心を通して、お互いの共通点・類似性を確かめ合う時期ですが、十分にけんかと仲直りを繰り返した経験のない中での仲間づくりは、「一人でなければいい、誰かと一緒でありさえすればいい」というような表面的な同調となってしまいがちです。
 思春期後半にかけては、少しずつお互いの違いを認め合うような仲間関係に発展していくものですが、そうなるためには、仲間に対して意見の相違や否定的な感情も誠実に伝えることが必要です。しかし、表面的な仲間関係では、同じであることをお互いに確認するだけで、相手との違いをはっきりと表現することができません。そしてそこに、現代の特徴であるSNSの普及があります。SNSの短文のみのやりとりの中で、「私は違うよ」という意見を十分に伝えるのは簡単ではありません。また、SNSによるコミュニケーションでは、いつでも人間関係を求めることができるからこそ、つながりたい時につながらないと「どうでもいいと思われているのでは?」という不信感を生んでしまいます。そのため、信頼感に基づいた深い人間関係を実感しにくくなることもあるのです。
                     
 一方で、すぐにつながることができるという利点のおかげで、身近な大人や仲間に受け入れられないと感じる子どもたちが、SNSによって孤独を感じることなく、居場所を得られることも事実です。実際に会うことができない相手と気軽にコミュニケーションができるという点で、様々な境遇の人を救うツールともなっているのです。
 しかしそれはまた、「ネット依存」という危険とも隣り合わせです。バーチャルの世界で見知らぬ人に認めてもらうということを続けていくうちに、実際に人と会って傷つくことが怖くなり、人と会うことから遠ざかり、つながりたい時だけ、自分を認めてくれる相手とだけつながるという、実社会ではありえない世界にしか安心できなくなってしまうことも起こってきます。
  
 このように、現代の子どもたちは今までの世代に比べ、成長の過程において、信頼関係を築く力や深いコミュニケーションを行う力を身に付ける機会が減っていると言えそうです。社会や文化が変われば人の在り方も変化していくものですから、あまり悲観することはありません。しかし、保護者世代が自然に身に付けてきた力が今の子どもたちは身に付けにくくなっているということをふまえ、可能な範囲で、必要な力を身に付けるための機会を補ってあげることも大切です。
 一方で、現代ならではのいろいろなサービスやツールが生まれてきており、意識すれば、従来とは違う新しい形で、各発達段階ごとの必要な体験(「発達段階ごとの特徴」参照)ができることも多いものです。子どもの成長にとって必要なことを知り、現代だからこそできるやり方を探して楽しみながら成長を促してあげられるといいですね。

②あふれる情報と子育て

 子どもの育ちの現状について、基本的な生活習慣や態度が身に付きにくく、他者とのかかわりが苦手になってきていること、自制心や耐性、規範意識が十分に育っていないこと、運動能力が低下していること等が幼児期の課題としてあげられています。小学校では、1年生などのクラスにおいて学習に集中できないことや教員の話が聞けないこと等も課題となっています。子どもたちも大人と同様に多くの情報に囲まれ、世の中についての知識は増えているものの、その知識は断片的で受け身的なものが多く、学びに対する意欲や関心が低いこと、また、日本の子どもたちは諸外国の子どもに比べ、自尊感情が低いこと等も指摘されてきました。

 このような社会の中で、私たちはインターネットで知りたい情報がすぐに得られ、SNSでいろいろな人とつながることが簡単にできるようになりました。その一方で、「○○したらいいよ」「○○だよ」等、多くの情報の中から必要な情報を選ばなくてはならなくなりました。それに対してストレスを感じたり、必要と思って選んだ情報より、選ばなかった情報の方がよく見えて後悔したり、見つけた情報に期待値が高まり過ぎたり、また、その反対に、自分に必要な情報が不足していると思い込んで次々と情報を集め過ぎたりと、あふれる情報によって子どもとかかわる大人の不安は高まっています。

 子育てをする中で様々な情報を得ることは悪いことではありませんが、取捨選択に迷うことは多くなります。焦ったり不安になったりした時には、情報から少し距離を置いて、子どもを見てあげてください。子どもは一人ひとり違います。この子に必要なのは何かを改めて見つめ直し、情報の中からだけではなく、子どもとの日常のかかわりの中で見つけてあげてください。

 そして、一人で悩む必要はありません。身近な人に話してみることが大切です。誰にも相談できない、一人で子どもにかかわっている、と思ってしまうことがあった場合は、身近な相談先や支援者を見つけることが大切です。一方向から得られる情報(支援方法)に加えて、双方向的なコミュニケーションの中で得られる支援で、一人で抱えこまない子育てをしてください。

 

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